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大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)1772号 判決 1980年8月08日

控訴人

株式会社奥山工務店

右代表者

奥山省三

右訴訟代理人

芝原明夫

豊川義明

被控訴人

株式会社パールフーズ

右代表者

野田純

右訴訟代理人

永田雅也

叶智加羅

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一本件事実経過に関する当裁判所の判断は、原判決理由第一項に説示されているところと同じである(ただし、原判決七枚目裏初行の「甲三号証」の次に「、五号証」を加え、同八枚目裏五行目の「早急に」から同八枚目裏八行目の「完了したが」までを「正式に建築確認を受けたうえ早急に工事を進めるように催促したところ、原告は、右建築確認を受ける前提として必要であるということで、まず右被告賃借地と河川敷との境界明示申請をして、同年一〇月二六日その明示を受けたこと、しかし」に改め、同八枚目裏一二行目の「直ちに」の次に「(同年一二月ころ)」を加える。)から、これを引用する。

二控訴人は、請負人である控訴人が仕事を完成しない間の昭和五二年一二月二五日に被控訴人が口頭で控訴人に対し民法六四一条による本件契約解除の意思表示をした旨主張する。たしかに前記認定事実によれば、被控訴人は、同年一二月ころ控訴人に対し、口頭で本件契約を御破算にしてほしい旨申し入れているが、被控訴人が右申入れをなすに至つた経緯については前記認定のとおりであつて、右経緯によれば、被控訴人としては本件土地上に寿司の材料製造工場を建設することができることを前提として本件契約を締結したものであり、控訴人もそのことを了解していたものであるところ、その後の調査で本件土地上に右のような工場を建設することは行政法上の規制によつて無理であることが判明したため、被控訴人は、本件契約を締結した本来の目的が達せられないとして、控訴人に対しその事情を説明して右の申入れをなしたことが明らかであつて、その申入れの趣旨とするところは、結局のところ本件契約目的を達することができないことを理由に、控訴人に本件契約の解消方の承諾を求めたにすぎないものであると解すべきであり、控訴人も右事情をやむをえないものとしてこれを承認するに至つたものというべきである。したがつて、右の申入れは、被控訴人において、控訴人に対し損害賠償をすることを前提とした民法六四一条の解除権を行使する意思を表明したものであると解するのは相当でないといわなければならない。そして、他に控訴人の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

三また、控訴人は、被控訴人の右表意が民法六四一条による解除をしたのではなく、控訴人の本件契約上の債務不履行を理由として本件契約の解除をしたものであるとしても、もともと控訴人には債務不履行の事実が全くなかつたのであるから、無効行為転換の法理により、被控訴人は結局民法六四一条による解除をしたものと解すべきである旨主張する。しかしながら、被控訴人の控訴人に対する前記申入れの趣旨は前項において説示したとおりであるのみならず、仮に控訴人が右主張するように、被控訴人から控訴人に対し本件契約上の債務不履行を理由に契約解除の意思表示がなされ、しかも、控訴人に債務不履行の事実がなく、したがつて、右の解除の意思表示が無効であつたとしても、このような場合に、いわゆる無効行為転換の法理により、被控訴人は当然に民法六四一条による解除をなしたものとすることは、損害賠償を請求できるつもりで解除の意思表示をした注文者に対し、反対に損害賠償義務を負担しなければならない立場を押し付けるものであつて、債務不履行を理由として契約解除の意思表示をした注文者の意思に著しく反するものというべきであるから、許されないものと解するのが相当である(なお、このことは、注文者が瑕疵担保責任を理由として契約の解除をなした場合にも同様に解すべきである。)。したがつて、控訴人の右主張は採用することができない。

四以上のとおりであるから、被控訴人が民法六四一条による解除権を行使したことを前提とする控訴人の損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく失当として棄却を免れない。

よつて、控訴人の右請求を棄却した原判決は結局相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(唐松寛 奥輝雄 平手勇治)

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